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東京地方裁判所 昭和29年(行)113号 判決 1956年10月10日

原告 国

被告 中央労働委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告指定代理人は、

被告が昭和二十九年不再第六号不当労働行為事件について昭和二十九年十月十三日附でなした命令を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、請求原因として、

一、訴外柳町健吉は駐留軍労務者として期間の定なく原告に雇用され、米駐留軍OOS八一八七部隊(追浜兵器工場)に昭和二十四年四月一日から昭和二十七年六月十五日まで自動車修理工として、同月十六日以降運転手として勤務していたところ、昭和二十八年八月二日右部隊から予告手当の提供による解雇の意思表示を受けた。

そこで右訴外人の所属する全駐留軍労働組合横須賀支部追浜分会は同月十一日右解雇を労組法第七条第一号の規定に違反する不当労働行為であるとし、神奈川県事知を被申立人として神奈川県地方労働委員会に救済の申立をしたところ、同委員会は昭和二十九年二月十日附で被申立人がなした右訴外人に対する解雇を取消し、同訴外人を復職させ且つ賃金相当額の支払を命ずる旨の救済命令を発しこの命令書写は同月十三日同県知事に送達された。同知事は同月二十五日この命令に対し、被告委員会に再審査の申立をなしたところ、被告委員会は同年十月十三日附で別紙のとおり再審査申立を棄却する旨の命令を発し、その命令書写は同月二十二日同知事に送達された。

二、しかしながら以下に述べるとおり右解雇は正当な組合活動を理由としてなされたものではなく、従つて労組法第七条第一号に違反しないのに拘らずこれを不当労働行為と認定した被告委員会の命令は違法であるからその取消を求めるものである。

(1)  柳町の解雇理由

追浜兵器工場(又は本件部隊)においては、駐留軍労務者が部隊の施設内にて組合活動をする場合は、すべて事前に軍の許可を要する旨指令されているのに拘らず同人は何等許可を受けず

(イ)  昭和二十八年五月九日午後四時三十分過頃右部隊四十一番建物二階従業員更衣室において新規採用者千明洋治に対し組合加入を勧誘してその加入申込用紙を配布し

(ロ)  同月十八日午前十時前頃(休憩時間直前)同建物二階テスト室で新規採用者松浦勇、萩原清の両名に教育実施中の中野班長が所用のため僅かの時間席を外した際同室に入り右両名に対して組合加入を勧誘し、加入申込用紙を配布し

(ハ)  同年六月十五日午後四時五十分頃前記(イ)の従業員更衣室で新規採用者遠井正三に対し組合加入を勧誘し、加入申込用紙を配布し

たのである。

右は労組法第七条第一号にいわゆる正当な組合活動に当らないのに拘らず被告委員会が正当な組合活動と判断したのは同法の適用を誤つた違法がある。

(2)  被告委員会の違法の判断

(一)  本件命令は柳町が昭和二十八年五月九日及び同年六月十五日に前記(イ)(ハ)のとおりの行為に出たのはいづれも午後四時三十分頃責任者からその日の作業終了の旨を告知され、更衣室に引き揚げて退場時刻を待つ間になされたもので「作業終了後」の組合活動であるから、労働協約第五十八条に照し、正当な組合活動であると判断しているが、右にいう「作業終了後」とは勤務終了後の趣旨であつて、退場時刻を待つ間は勤務時間中である。即ち部隊において勤務時間は午前八時から午後五時までの拘束九時間の内休憩一時間を除き実働八時間であつて、休憩時間は午前十時から十分間、十二時から四十分間午後三時から十分間の計一時間であり勤務の時間中(休憩時間を含む)でも、勤務時間後(午後五時以後翌日午前八時まで)でも、部隊の許可のない組合活動は厳に禁止されている。もつとも原告国と全駐留軍労働組合との間に締結の労働協約第五十八条には休憩時間中と作業終了後は組合員が軍の施設内で組合活動をすることを承認している。然しながら右は組合活動自由の原則を承認したに止まり事実上の使用者である軍が行政協定第三条に基いて有する権限たる施設管理権を排除するものではない。従つて組合員が具体的に施設内で組合活動を行う場合には施設の管理権者である軍の許可を不必要とする趣旨ではない。このことは労働協約附属の確認事項として明文をもつて協定されている。然し軍が右協約第五十八条の精神を尊重し広範囲に組合活動を承認することを期待するもので、被告国としても協約第六十条によりそのように軍の了解を得ることに努力する義務を組合に対して負担しているわけである。即ち軍は協約第五十八条の規定に拘束されることなく、独自の立場から組合活動を制限する権限を有するものである。

次に協約第五十八条に作業終了後とあるのが勤務時間外を指すことは、第五十九条とも関連するもので、同条は前記のとおりの勤務時間を規定するものであるが第五十八条はその以外の時間を意味する。

仮に右作業終了後の意味するところは本件命令にいうように作業終了後の時間をも含むものとして原告国がその時間中の組合活動を承認したものと解釈されても前記のように軍の管理権に基く制限を排除するものではないから軍の禁止指令を妨げないわけである。

(二)  本件命令は従業員が責任者から作業終了の旨を告知された後の作業終了後の時間は特に作業指示を受けない限り退場時刻まで従業員更衣室で談笑娯楽等各自の任意に費すことを許されていた慣行の存在を前提として、それ故その時間に組合員が組合加入申込用紙を配布することは、右慣行の範囲を逸脱するものでなく軍の権限に牴触するものでないと判断しているが、これも理由のない速断である。

なる程右にいう作業終了後退場時刻までの時間が事実上従業員の談笑娯楽に費されていたことは争うものではないけれども、軍はこれを認めていたものでなく、単に作業又は退場まで待機する間他の従業員の作業に影響を及ぼさず又は職場秩序に反しない限度において休息にふさわしい程度の談笑が放任されていたに過ぎない。従つてこの時間に組合活動が当然に許される根拠はなくまた許されていなかつたのである。

(三)  本件命令は前記の(1)(ロ)の事実を認定しながら右行為は休憩時間中に行われたものであるから正当な組合活動であると判断している。

然し右行為は午前十時以前の勤務時間中になされたのであるが、仮に柳町にとつて休憩時間中であつたとしても、加入勧告を受けた者にとつては授業中断中とはいえ授業時間中であり且一般の自由使用を許されていないテスト室(立入禁止区域)であつて、このような時間、場所での組合活動は許されていないのである。

三、解雇の情状

柳町は部隊の許可なく昭和二十七年十二月一日午後四時三十分頃同部隊四十一番建物二階運転手待合室にて同僚運転手約三十名を集めて全日駐東京大会の状況を報告し、引続き同日午後四時五十五分頃同部隊四十番建物更衣室にて同僚運転手約七十名を集め、全駐労全国大会の状況年末手当に関する交渉経過等を報告した。

右のように許可なく施設内で勤務時間中組合活動をしたことは軍の指令に違反するので、部隊司令官スターク大佐は昭和二十八年一月七日柳町を譴責処分に附し「貴殿は追浜兵器工場に運転手として採用されたものであり今後午前八時から午後五時までの間はその職責を遂行し、許可のない会合には組合のものであると否とを問わず指導又は参加してはならない。」との趣旨の戒告書を交付し、今後軍の指令に違反するときは解雇されるであろうとの警告を発した。

それにも拘らず何等反省の意を示さず更に指令違反を繰り返したのであるからその活動の軽重如何に拘らず度重なる故意の規律違反は情状重いものといわなければならない。

と述べた。(証拠省略)

被告指定代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中

一、の事実は認める。

二、の(1)事実中柳町が許可なく(イ)(ロ)(ハ)の所為に出たことは認める。

但し(ロ)の午前十時前頃とあるのは午前十時過頃の休憩時間中である。その余は認めない。

二、の(2)事実中勤務時間と休憩時間の点、及び協約の締結されていることは認めるがその余は認めない。

柳町の解雇は不当労働行為であつて、その理由は別紙命令書記載のとおりである。

三、の事実中その主張のとおりの戒告書の交付されたことは認める。追浜兵器工場における組合組織の沿革と労働慣行は次のとおりである。

右工場においては昭和二十四年当時日本政府直傭労務者が存在せず富士自動車株式会社が請負業者としてその業務を執行した。当時その従業員は富士自動車従業員組合を組織して組合活動を行つていたが軍は昭和二十六年春頃から逐次LSOに転換し、柳町の属していたモータープールも含まれていた。これらLSO労務者を対象として全駐労横須賀支部は組織活動を行い組合員の増大に伴い翌二十七年三月十五日全駐労追浜分会の結成を見るに至つた。従つて富士自動車従業員組合と全駐労追浜分会は同じ基地内で関連ある業務に従事し、然も基地司令官を同じくする関係上軍と組合との関係については基地内における組合活動一般について一方には許されるが他方には許されないということはなく同様に取扱われてきたものである。

柳町はこれより先昭和二十四年四月富士自動車株式会社従業員として採用されモータープールに自動車修理工として勤務したがLSO転換に伴いLSO労務者となり追浜分会創立大会で執行委員となり次で昭和二十八年六月第二回大会で副執行委員長に選任された。ところで工場内の組合活動の内軍の許可を必要とするものと必要としないものとは慣行として次のとおり区別されていた。軍は昭和二十八年三月二十六日富士自動車追浜工場長の問合せに対し組合の常例的行事を除く集会又は組合活動を前以つて知悉することが必要であると回答した(乙第六号証の二)ので爾来基地内の組合活動はこれに基いて行われた。右文書によれば組合の常例的活動は軍の許可を要しないこと明僚であるので爾後その種の組合活動は許可を要せず自由に行われた。

次で同年十月二十八日工場指揮官ライト大佐は前記工場長に対し工場内の組合活動について言及した際常例的組合活動の内容を明らかにし組合員が単独又は小団体で実施するものだけに限られ、

(1)  職場委員が組合の代表者として各組合員に対して行う連絡事務

(2)  組合委員会の結果報告(3)組合諸規定の変更事項に関する報告等を含むものとしている。(乙第七号証)右事項は例示の趣旨であること明瞭であるからこれに準ずるその他の行為例えば組合加入申込用紙の交付等も常例的組合活動の内容に含まれるものと解される。その後ライト大佐は前記工場長の書面に対する回答において極東軍司令部の方針として請負業者の従業員は米軍施設内において労働組合若しくはその他従業員団体に加入のための勧誘又は会費その他の費用の徴収を休憩時間中にだけ行うことが許される旨を明示した。(乙第八号証)

柳町のなした組合加入勧告と申込用紙の授受行為は常例的組合活動に該当し軍の許可を必要としないことは明らかである。

次に原告は解雇の情状として柳町の受けた戒告書を引用するけれども、その内容は無許可会合を理由とするものであるから本件とは関連がない。

右のとおり柳町の行動は正当な組合活動であるところ、本件解雇はその組合活動を理由としてなされたものであるので不当労働行為として無効である。

と述べた。(証拠省略)

理由

原告主張の一の事実は被告の認めるところである。

而して本件において原告が被告のなした右命令が違法であると主張するところは、柳町のなした組合活動が正当であるかどうかの点にある。

よつて先ず柳町の行動を見るに

同人が原告主張のとおり軍の許可なく二の(1)の(イ)(ロ)(ハ)の行為に出たこと(但し(ロ)の時刻を除く)は当事者間に争がない。そして右(ロ)の時刻については成立に争のない乙第二号証の十同第五号証の一記載と証人中野喜義、松浦勇の証言中には原告主張のように午前十時直前即ち午前十時以後の休憩時間の前である旨の記載と供述があるけれども、この記載と供述は証人豊田勝雄の証言と対比し措信し難いところである。右豊田証人の証言によれば、当時運転手の作業は流れ作業であつて休憩時間はラッパの合図によつて厳守し、当日作業時間中運転手の不在によつて作業に支障の起きたことのなかつたことが認められるから、この事実によれば当日柳町が(ロ)の行動に出たのは休憩時間中であると推認するのが相当である。

そこで右(イ)、(ハ)の行動が正当な組合活動であるかどうかを検討する。

一般に組合が組合員の団結の拡大強化を図るためになす行動が組合活動であるためには組合の授権又は承認を要するものであるが、このような授権又は承認は組合の明示の意思決定を常に必要とするものとは限らず行為の性質により組合の団結を擁護するものであることが明白であり且それが日常なされているものであるときは、組合は黙示に授権を与え又は承認しているものと解するのが相当であるので、本件のような新規採用者に対する組合加入勧告及び加入申込用紙の交付は行為の性質上団結権の擁護を目的とするものであり且つその目的を以つて日常なされるものであるから、このような行動は組合の明示の授権又は承認を問うまでもなく組合活動と認めるのが相当である。

而して成立に争のない乙第一号証の八(労働協約)同第二号証の十二同第六号証の一、二同第七、八号証甲第一号証の三、四の各記載と証人市川誠、柳町健吉の各証言を総合すれば追浜兵器工場においては当初富士自動車株式会社がその従業員をもつて軍のために労務を提供していたもので、その従業員によつて富士自動車従業員組合が結成されていたところ、昭和二十六年頃から右従業員は逐次原告国の雇用となり軍の使用する駐留軍労務者(LSO)に切り換えられ、翌二十七年春頃その労務者によつて全駐労追浜分会が結成されるに至つたので、右工場においては軍の指揮下にあつて関連する業務に従事する労働者が右二つの組合に所属し、それぞれ組合活動を行つたものであるが、軍は工場内の組合活動について両組合とも同一方針による取扱をなし差別的に取扱う意図がなかつたこと、柳町は昭和二十四年四月富士自動車株式会社の従業員として採用されたが、その後原告国の雇用に切り換えられ、全駐労追浜分会の結成と共に執行委員に選任されたこと、昭和二十七年十一月原告国と全駐労との間に締結された労働協約第五十八条によれば国は組合の組合活動の自由を承認し事業場内における休憩時間及び作業終了後の組合活動を承認するが、その確認事項第三項によれば右承認は行政協定第三条に基く軍の権限を排除するものではなく従つて軍の施設内において組合活動を行う場合においては軍の手続をとるものとしていること、(協約の存在の点は当事者間に争がない)本件工場について軍は昭和二十八年三月二十六日富士自動車追浜工場長の問合せに対し保安のため組合の常例的行事を除く集会又は組合活動を前以つて知悉すること及び掲示、印刷物等について軍の認許が必要である旨回答したこと、同年十月二十八日工場指揮官ライト大佐は前記工場長に対し工場内の組合活動について常例的組合活動はいかなる場合でも現在の組合員が単独又は小団体で実施するものだけに限られ(1)職場委員が組合の代表者として各組合員に対して行う連絡事務(2)組合委員会の結果報告(3)組合諸規定の変更事項に関する報告を含む旨言明したこと、更に同大佐はその後富士自動車宛の書面をもつて、右言明を確認すると共に請負業者の従業員は米軍施設内において労働組合若しくはその他従業員団体に加入のための勧誘又は会費その他の費用の徴収を休憩時間中に限り行うことが許される旨を明示したことが認められる。

右事実によれば、軍は本件柳町の行為当時右工場内における組合活動について、富士自動車従業員組合の組合員が組合加入のための勧誘及び加入申込用紙の配布をなすことを休憩時間中又は作業終了後に限り容認し、その許可を受けることを必要としない方針をとつていたこと及び右方針は右工場内における全駐労追浜分会所属の組合員について同一に取り扱う意図を有していたことを推知するに難くない。

右認定を覆えし駐留軍労務者が部隊の施設内において組合活動をする場合はすべて事前に軍の許可を要する旨指令されているとの事実を認むべき証拠はない。

そこで前記(イ)(ハ)の柳町の組合活動は午後四時三十分から午後五時までの間の勤務時間中になされたのであるが、右が作業終了後に当るかどうかについて証人菊池水雄、菅原厚の各証言及び成立に争のない乙第五号証の二、同第五号証の四の記載中には勤務時間の終了する午後五時が作業終了の時であるように原告の主張に副う趣旨の供述と記載があるけれども、右は別段の根拠なく自己の見解又は解釈を表明したものであつて、にわかに納得し難いところである。而して本件工場において証人柳町健吉、三富博の証言によれば、労務者は午後五時まで作業を命ぜられることはなく、その前に作業終了を告げられ更衣室に引き揚げて退場時刻(午後五時)を待ちその間雑談娯楽に費されて軍の監督の外に置かれていたことが認められるので、右のように作業終了を告げられて更衣室に引き揚げ退出時刻を待つている間は作業終了後というのが相当である。そして柳町証言によれば右(イ)(ハ)の行為は同人が作業終了を告げられ更衣室に引き揚げた際になされたものであることが認められるので、本件組合活動は作業終了後のもので軍の許可を要しないものと判断せざるを得ず従つて正当の組合活動というに何等妨げない。次に同人の二の(1)の(ロ)行為について検討する。

この行為が休憩時間中になされたものであることは前認定のとおりである。

而して同人が組合活動をなした二階テスト室がその使用につき軍の許可を受けない者の立入禁止となつていることは証人中野喜義菅原厚の証言によつて認めることができる。してみれば柳町が組合活動のため右室に立入ることは軍の許可を要するもののように考えられる。

しかしながらそれだからといつて右組合活動が労組法第七条第一号にいう正当性を失うものと速断することはできない。何となれば同法同号にいう組合活動の正当性は労働者の具体的な組合活動に対して使用者のなした解雇等個々の不利益処分が同法の精神に照し許容されるかどうかの相対的な観点より判断すべきものと解するのが相当であるので、その組合活動の違法又は不当性が労働慣行上軽徴であるため、これを理由とする解雇その他の不利益処分が客観的妥当性を失う場合には、その不利益処分は許されないものというべく、従つてこの意味において正当な組合活動というを妨げないからである。

よつて本件において解雇の妥当性を考察するに、軍が本件室の立入を禁止した趣旨は軍の機密保持を害する虞あるためその他職場秩序の紊乱を防止する目的をもつてなされたものと諒解するに難くないが、柳町が右室に立ち入つたのは教育を受けていた新規採用者が休憩中であつて、教育実施に何等妨げない状況にあつたためであることが明らかであるので職場秩序を紊乱したとは認められず、その他軍の機密保持の目的を甚しく害する虞あるものとも考えられない。してみれば、組合活動のため無断で同室に立ち入つたことの故に解雇することは、労組法が組合の団結権を擁護する精神に照し甚しく不当であつて解雇につき妥当性を有するものと首肯することはできない。従つて前記の理由により柳町の(ロ)の組合活動は正当性を失わないものといわざるを得ない。

以上の次第で本件命令が違法であるとする原告の主張は理由がないのでその請求を棄却し民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西川美数 綿引末男 三好達)

(別紙)

命令書

再審査申立人 神奈川県知事 内山岩太郎

再審査被申立人 全駐留軍労働組合横須賀支部追浜分会

右当事者の昭和二十九年不再第六号不当労働行為事件について、当委員会は昭和二十九年十月十三日第二百十回公益委員会議において、会長中山伊知郎、公益委員吾妻光俊、同佐々木良一、同中島徹三同小林直人出席し、会議のうえ左の通り命令する。

主文

本件再審査申立を棄却する。

理由

(再審査申立人)

一、再審査申立人神奈川県知事は、調達庁設置法第九条及び第十条、地方自治法第一四八条及び同条別表第三の一の(三の二)等に基いて、神奈川県内における駐留軍のため労務に従事する者の雇入、提供、解雇及び労務管理に関する事務を国から委任され、且つ執行するものである。

(再審査被申立人)

二、再審査被申立人全駐留軍労務組合横須賀支部追浜分会は、再審査申立人によつて雇用され、駐留軍追浜兵器工場に勤務する労務者で組織する労働組合である。

(柳町健吉の身分及び組合活動)

三、右組合の組合員である柳町健吉は、昭和二十四年四月一日前記工場のモータープールに自動車修理工として採用され、昭和二十七年六月十六日からは運転手として勤務して来た。

この間、同人は、(一)昭和二十七年三月十五日の組合創立大会で執行委員に選任され、(二)組合が全国に先がけて昭和二十九年八月十五日に行つたモータープールの職場明郎化要求争議のストライキに際して統制委員長として活動し、(三)同年十二月十七日に行つた日米労務基本契約の改訂、ベースアップ、年末手当等の要求争議の県下統一ストライキに際しても統制委員長として活動し、(四)昭和二十八年六月の第二回組合大会では副執行委員長に選任される等、組合創立以来終始熱心に組合活動に従事したが、(五)その間、昭和二十八年一月七日付で駐留軍工場司令官より同人が昭和二十七年十二月一日工場内で組合活動を行つたかどで「今後指令又は命令に違反する場合は解雇されるであろう」旨の叱責書を受け、これに署名したものである。

(柳町健吉の解雇)

四、再審査申立人は、柳町健吉が「軍施設内における許可なき組合活動」を行つた理由で、同人を昭和二十八年八月二日付で即時解雇した。解雇の原因たる事実として再審査申立人の挙げるところは次のとおりである。

同人は嘗つて叱責書を受けこれに署名したにも拘らず、

第一、昭和二十八年五月九日午後四時三十分過ぎ頃及び同年六月十五日午後四時五十分頃同工場四十一番建物二階従業員更衣室において、更衣中の新規採用者、二名に対して組合加入申込用紙を配布し、

第二、同年五月十八日午前十時頃同建物二階テスト室において新規採用者二名に対して教育中のフオーマンが席を外し授業の中断中、同室に入り被教育者二名に対して組合加入申込用紙を配布した。

五、前記第一事実については争がない、柳町健吉が新規採用者に対して組合加入申込用紙を配布した行為は組合活動と認める外ないが、その組合活動が正当なものであるか否かについて進んで検討するに、五月九日の場合でも六月十五日の場合でも同人と新規採用者とが組合加入申込用紙を授受した行為はいずれも午後四時三十分頃責任者からその日のそれぞれの作業終了の旨を告知され、従業員更衣室に戻つて退場時刻を待つ間に行つたものであり、「作業終了後」の組合活動乃至は、いわば「休憩時間中」の組合活動にならないので、全駐留軍労働組合と調達庁との間に締結された現行労働協約第五十八条に照し、正当な組合活動であると認めるのが相当である。再審査申立人は第一事実は現行労働協約に附随して締結された確認事項第三項中「軍の必要とする手続」を経ずしてなされたから正当な行為でないと主張するが、確認事項第三項は「第五十八条は組合活動自由の原則を確認したものであつて、行政協定第三条に基く軍の権限を排除するものでない。従つて軍の施設又は区域において組合活動を行う場合においては軍の必要とする手続をとるものとする。」というのであつて、これを駐留軍兵器工場について言えば、組合員が責任者から作業終了の旨を告知され、従業員更衣室に戻つて退場時刻迄特に作業指示をうけない限り更衣、談笑、娯楽等各自の任意に費すことを許されていた慣行を変更するものではないから、その際組合員が組合加入申込用紙の授受を行つたとしても毫も前記慣行の範囲を逸脱したものでないし軍の権限に牴触するものでもない。

前記第二事実については、事件本人柳町健吉は同日同時刻頃モータープールに帰つた事実はないと否定しているが、当審における審問において、再審査被申立人は初審命令のこれに関する事実認定について異存のない旨答弁しているので、この行為の事実はあつたものと認めざるを得ない。然しながら、当日柳町健吉が派遣された富士自動車株式会社に勤務する豊田勝雄の証言によれば当日豊田は柳町の運転する自動車の指揮班長として数名の班員と共に終日車を共にしており、同自動車は午前十時頃ラジエーターを積んで同工場第二十四番ショップ即ち右会社組立工場にあり、同場所は一方交通のため運転手は事実上作業時間中は瞬時も車を離れ得ないこと、同工場においては午前十時から十分間の休憩時間があることが認められ、且つ行為の時刻についての再審査申立人の主張はすこぶる曖昧であることを考え併せると、柳町の右行為は休憩時間中に行われたものと認定するを相当とする。

従つて柳町健吉のこの行為は正当な組合活動といわねばならない。

六、よつて労働組合法第二十五条、同条第二十七条及び中労委規則第五十五条により主文のとおり命令する。

昭和二十九年十月十三日

中央労働委員会

会長 中山伊知郎

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